AWS EKSで発生するよくあるトラブルと解決策

Amazon EKS (Elastic Kubernetes Service) は、AWSクラウド上でKubernetesを簡単に実行できるマネージドサービスです。しかし、分散システムの性質上、様々な問題が発生することがあります。この記事では、AWS EKSを使用する際によく遭遇する問題とその解決策について詳しく解説します。

1. ノードグループの起動と登録の問題

問題

EKSクラスターを作成した後、ワーカーノードがクラスターに正常に登録されない。

原因

  • IAMロールの権限不足
  • セキュリティグループの設定ミス
  • ノードのブートストラップスクリプトの問題

解決策

  • ノードグループに関連付けられたIAMロールに必要な権限(AmazonEKSWorkerNodePolicyAmazonEKS_CNI_PolicyAmazonEC2ContainerRegistryReadOnly)があることを確認する
  • セキュリティグループがコントロールプレーンとノード間の通信を許可していることを確認する
  • ノードのブートストラップログを確認する:/var/log/cloud-init-output.log
  • 以下のコマンドでノードの状態を確認する:
kubectl get nodes
kubectl describe node <node-name>

2. Pod起動の問題

問題

Podが Pending または CrashLoopBackOff 状態で停滞する。

原因

  • リソース不足(CPU/メモリ)
  • コンテナイメージの問題
  • ボリュームマウントの問題
  • アプリケーションの起動エラー

解決策

  • Podの詳細を確認する:
kubectl describe pod <pod-name>
kubectl logs <pod-name>
  • リソース制約を確認・調整する
  • コンテナイメージが正しく、アクセス可能であることを確認する
  • PersistentVolumeClaimが正しく作成され、バインドされていることを確認する
  • アプリケーションログでエラーを確認する

3. ネットワーク接続の問題

問題

Podがサービスにアクセスできない、または外部からのアクセスができない。

原因

  • CoreDNSの問題
  • Kubernetes Service設定の誤り
  • VPCやサブネットの設定ミス
  • セキュリティグループのルール不足

解決策

  • CoreDNSのPodが正常に動作していることを確認する:
kubectl get pods -n kube-system -l k8s-app=kube-dns
  • サービスとエンドポイントの設定を確認する:
kubectl get svc <service-name>
kubectl get endpoints <service-name>
  • VPC CNIプラグインが正常に動作していることを確認する
  • ノードのセキュリティグループが必要なトラフィックを許可していることを確認する
  • ネットワークポリシーが適切に設定されていることを確認する

4. 認証と認可の問題

問題

ユーザーやサービスアカウントがクラスターリソースにアクセスできない。

原因

  • IAM認証の設定ミス
  • RBAC(Role-Based Access Control)の構成エラー
  • aws-authのConfigMapの問題

解決策

  • IAMロールまたはユーザーがEKSクラスターにアクセスするための正しい設定を確認する
  • aws-authのConfigMapを確認・修正する:
kubectl -n kube-system get configmap aws-auth -o yaml
  • RBACの設定を確認する:
kubectl get roles,clusterroles,rolebindings,clusterrolebindings
  • 特定のユーザーやサービスアカウントに対して、以下のコマンドで権限を確認する:
kubectl auth can-i <verb> <resource> --as=<user>

5. クラスターの自動スケーリングの問題

問題

Cluster Autoscalerが正常に機能せず、ノードが自動的にスケールしない。

原因

  • Cluster Autoscalerの設定ミス
  • IAM権限の不足
  • ASG(Auto Scaling Group)の設定の問題

解決策

  • Cluster Autoscalerが正しく設定されていることを確認する:
kubectl -n kube-system logs -f deployment/cluster-autoscaler
  • Cluster Autoscaler用のIAMポリシーが正しいことを確認する(EC2インスタンスのスケーリング権限が必要)
  • ASGのタグ設定を確認する(k8s.io/cluster-autoscaler/enabledk8s.io/cluster-autoscaler/<cluster-name>
  • 最小/最大ノード数の設定が適切であることを確認する

6. EKSアップデートと互換性の問題

問題

EKSクラスターのバージョンアップデート後に問題が発生する。

原因

  • APIの変更による互換性の問題
  • アドオンやカスタムコンポーネントの互換性
  • ノードグループのアップデートが完了していない

解決策

  • アップデート前にKubernetesのリリースノートを確認し、非推奨APIや変更点を把握する
  • アドオンを最新バージョンにアップデートする
  • ノードグループのKubernetesバージョンもアップデートする
  • 段階的なアップデート戦略を採用し、テスト環境でまず検証する
  • 問題が発生した場合は、以下のコマンドでリソースの状態を確認する:
kubectl get all --all-namespaces
kubectl describe <resource-type> <resource-name>

7. リソース管理とコスト最適化の問題

問題

クラスターのリソース使用率が低い、または高いコストが発生している。

原因

  • リソース要求と制限の不適切な設定
  • 未使用リソースの放置
  • 適切でないインスタンスタイプの選択

解決策

  • Kubernetes Metrics Serverとモニタリングツール(Prometheus、Grafanaなど)を導入する
  • コンテナのリソース要求と制限を適切に設定する
  • スポットインスタンスを活用してコストを削減する
  • 未使用のリソースを定期的にクリーンアップする
  • Horizontal Pod Autoscaler (HPA)を使用してワークロードを自動的にスケールする

8. ロギングとモニタリングの問題

問題

クラスターやアプリケーションのログやメトリクスにアクセスできない。

原因

  • ロギング・モニタリングツールの未設定
  • アクセス権限の問題
  • ストレージの不足

解決策

  • CloudWatchコンテナインサイトを有効にする
  • Fluentd、Elasticsearch、Kibanaのスタックを導入する
  • Prometheus、Grafanaを設定して詳細なメトリクスを収集・可視化する
  • ログローテーションを適切に設定する
  • IAMロールに必要なロギング・モニタリングサービスへのアクセス権限を付与する

9. EBSやEFSなどのストレージに関する問題

問題

永続ボリュームが正しく作成されない、またはPodにマウントできない。

原因

  • StorageClassの設定ミス
  • IAM権限の不足
  • ボリュームのアベイラビリティゾーンの問題

解決策

  • StorageClassが正しく設定されていることを確認する:
kubectl get storageclass
kubectl describe storageclass <storage-class-name>
  • PersistentVolumeClaimの状態を確認する:
kubectl get pvc
kubectl describe pvc <pvc-name>
  • ノードに適切なIAM権限(EBS/EFSへのアクセス)があることを確認する
  • EBSの場合、ボリュームとPodが同じアベイラビリティゾーンにあることを確認する
  • EFSの場合、セキュリティグループが適切に設定されていることを確認する

10. 管理およびオペレーションの問題

問題

クラスター管理やオペレーションが複雑で時間がかかる。

原因

  • 手動プロセスの多用
  • 統合ツールの不足
  • ドキュメントや標準手順の不足

解決策

  • Infrastructure as Code(Terraform、CloudFormation、CDK)を活用する
  • CI/CDパイプラインを構築して自動デプロイを実現する
  • Helmチャートを使用してアプリケーションのデプロイを標準化する
  • EKSアドオンを活用して管理を簡素化する
  • クラスター構成とトラブルシューティング手順をドキュメント化する
  • GitOps手法を採用してクラスター構成を管理する

まとめ

AWS EKSを利用する際には様々な課題が発生しますが、適切な設定、モニタリング、トラブルシューティング手順を知っておくことで、多くの問題を迅速に解決できます。問題が発生した場合は、まず関連するリソースの状態を確認し、ログを調べ、段階的にトラブルシューティングを進めることをお勧めします。また、事前に適切なモニタリングとアラート設定を行うことで、問題の早期発見と対応が可能になります。

EKSクラスターを本番環境で運用する際は、定期的なメンテナンス計画の策定、バックアップおよびディザスタリカバリの準備、セキュリティベストプラクティスの遵守も重要です。これらの対策により、安定したKubernetesクラスターを維持し、ビジネスにとって価値のあるサービスを提供し続けることができるでしょう。

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