Laravel 11が2024年初頭にリリースされ、PHPの人気Webアプリケーションフレームワークに多くの改良と新機能が導入されました。この記事では、Laravel 11の主要な変更点と新機能を詳しく解説し、アップグレードのポイントについても触れていきます。
目次
主要な変更点
Laravel 11では、フレームワークの基盤となる部分に大きな変更が加えられています。
PHP 8.2以上が必須に
Laravel 11では、PHP 8.2以上が必須要件となりました。これにより、PHP 8.2で導入された新機能(読み取り専用プロパティ、DNF型など)をフレームワーク内で活用できるようになりました。
アプリケーション構造のスリム化
Laravel 11では、アプリケーションの基本構造がよりシンプルになりました。新しい構造では不要なディレクトリやファイルが削除され、必要に応じて追加できるようになっています。
laravel-11-app/
├── app/
│ ├── Http/
│ │ ├── Controllers/
│ │ └── Middleware/
│ ├── Models/
│ └── Providers/
├── bootstrap/
├── config/
├── database/
├── public/
├── resources/
├── routes/
├── storage/
└── tests/
特に注目すべき変更として、デフォルトで含まれるディレクトリが削減され、必要なものだけが残されています。例えば、app/Console
やapp/Exceptions
などのディレクトリは、必要に応じて追加することが推奨されています。
簡素化されたルーティング
Laravel 11では、ルーティング構造も簡素化されました。routes/web.php
がデフォルトのルーティングファイルとなり、routes/api.php
、routes/console.php
、routes/channels.php
などは必要に応じて追加するようになりました。
// routes/web.php
use Illuminate\Support\Facades\Route;
use App\Http\Controllers\UserController;
Route::get('/', function () {
return view('welcome');
});
// コントローラーの登録方法も簡潔に
Route::get('/users', [UserController::class, 'index']);
Route::get('/users/{user}', [UserController::class, 'show']);
サービスプロバイダの変更
Laravel 11では、多くのサービスプロバイダが統合または削除され、デフォルトで読み込まれるプロバイダの数が削減されました。これにより、アプリケーションの起動時間が短縮されています。
// config/app.php
'providers' => [
// フレームワークサービスプロバイダ
Illuminate\Foundation\Providers\FoundationServiceProvider::class,
// アプリケーションサービスプロバイダ
App\Providers\AppServiceProvider::class,
App\Providers\RouteServiceProvider::class,
],
新機能
Laravel 11には、開発をより効率的にする新機能が多数追加されています。
インバウンドバリデーション
Laravel 11では、リクエストの処理前にモデルのプロパティを自動的に検証する「インバウンドバリデーション」機能が導入されました。
class User extends Model
{
protected $inboundValidation = [
'name' => 'required|string|max:255',
'email' => 'required|email|unique:users',
'password' => 'required|min:8',
];
}
コントローラー内では以下のように使用できます:
public function store(Request $request)
{
$user = new User($request->all());
$user->save(); // 保存前に自動的にバリデーションが実行される
return redirect()->route('users.show', $user);
}
パイプラインコンポーネント
Laravel 11では、Bladeテンプレートエンジンに「パイプラインコンポーネント」と呼ばれる新しい機能が追加されました。これにより、コンポーネント間でデータを渡すフローがより直感的になります。
<x-layout>
<x-header title="ダッシュボード" />
<x-card>
<x-slot:header>
最近の活動
</x-slot>
<x-activity-list :activities="$recentActivities" />
<x-slot:footer>
すべての活動を見る
</x-slot>
</x-card>
</x-layout>
強化されたエラーハンドリング
Laravel 11では、エラーハンドリング機能が強化され、より詳細なエラー情報と改善された例外ページが提供されるようになりました。
// app/Exceptions/Handler.php
public function register(): void
{
$this->reportable(function (Throwable $e) {
// カスタムエラーレポートロジック
});
$this->renderable(function (ValidationException $e, $request) {
if ($request->expectsJson()) {
return response()->json([
'message' => 'バリデーションエラー',
'errors' => $e->errors(),
], 422);
}
});
}
新しいアーティザンコマンド
Laravel 11では、開発者の生産性を向上させる新しいArtisanコマンドが追加されました。
# モデル、マイグレーション、コントローラー、テストを一度に生成
php artisan make:model Post --all
# キャッシュを最適化
php artisan optimize:clear
# コントローラーとアクションの一覧を表示
php artisan route:list --controller=UserController
タイムゾーン変換の改善
Laravel 11では、タイムゾーン関連の処理が改善され、より柔軟なタイムゾーン操作が可能になりました。
// config/app.php でデフォルトのタイムゾーンを設定
'timezone' => 'Asia/Tokyo',
// コード内での使用例
$datetime = now()->inTimezone('America/New_York');
echo $datetime->format('Y-m-d H:i:s');
// ユーザーのタイムゾーンに合わせた表示
$userTimezone = $user->timezone ?? config('app.timezone');
echo now()->inTimezone($userTimezone)->format('Y-m-d H:i:s');
パフォーマンスの改善
Laravel 11では、パフォーマンスに関するいくつかの重要な改善が行われています。
オクターン JIT コンパイラーの統合
Laravel 11では、Octane環境でのJIT(Just-In-Time)コンパイラーのサポートが強化され、アプリケーションのパフォーマンスが大幅に向上しました。
// config/octane.php
return [
'jit' => [
'enabled' => env('OCTANE_JIT_ENABLED', true),
'level' => env('OCTANE_JIT_LEVEL', 1),
],
];
データベースクエリの最適化
Laravel 11では、Eloquent ORMのクエリビルダーが最適化され、より効率的なSQLクエリが生成されるようになりました。
// 前のバージョンよりも効率的なクエリが生成される
$users = User::with(['posts' => function ($query) {
$query->latest()->take(5);
}])->whereHas('roles', function ($query) {
$query->where('name', 'admin');
})->get();
キャッシュドライバーの改善
Laravel 11では、キャッシュシステムが改善され、新しいドライバーのサポートと既存ドライバーのパフォーマンス向上が図られています。
// config/cache.php
'stores' => [
'redis' => [
'driver' => 'redis',
'connection' => 'cache',
'lock_connection' => 'default',
'client_type' => 'phpredis', // 'phpredis' または 'predis'
'prefix' => env('REDIS_PREFIX', 'laravel_cache:'),
],
],
セキュリティの強化
Laravel 11では、セキュリティ関連の機能が強化されています。
CSRFトークンの改善
Laravel 11では、CSRFトークンの生成と検証プロセスが改善され、より安全なWeb開発が可能になりました。
// フォーム内でのCSRFトークンの使用
<form method="POST" action="/profile">
@csrf
<!-- フォームフィールド -->
</form>
パスワードハッシュの強化
Laravel 11では、デフォルトのパスワードハッシュアルゴリズムが強化され、より安全なパスワード保存が可能になりました。
// config/hashing.php
'bcrypt' => [
'rounds' => env('BCRYPT_ROUNDS', 12),
],
Rate Limitingの改良
リクエスト制限(Rate Limiting)機能が改良され、より細かく柔軟な設定が可能になりました。
// RouteServiceProvider.php
protected function configureRateLimiting()
{
RateLimiter::for('api', function (Request $request) {
return Limit::perMinute(60)->by($request->user()?->id ?: $request->ip());
});
RateLimiter::for('login', function (Request $request) {
return Limit::perMinute(5)->by($request->input('email').$request->ip());
});
}
開発者体験の向上
Laravel 11では、開発者の日常的な作業を効率化するための機能が多数追加されています。
タイプヒントの強化
Laravel 11では、フレームワーク全体でタイプヒントが強化され、IDEでのコード補完とエラー検出が向上しています。
// コントローラー内でのタイプヒント例
public function show(User $user): View
{
return view('users.show', ['user' => $user]);
}
// サービスクラスでのタイプヒント例
public function process(array $data): ProcessResult
{
// 処理ロジック
}
IDE Helper の改善
Laravel IDE Helper パッケージとの互換性が向上し、より正確なコード補完が可能になりました。
# IDE Helper ファイルの生成
php artisan ide-helper:generate
php artisan ide-helper:models
php artisan ide-helper:meta
テストの向上
Laravel 11では、テストAPIが強化され、より直感的で効率的なテスト記述が可能になりました。
// フィーチャーテストの例
public function test_user_can_view_their_profile()
{
$user = User::factory()->create();
$response = $this->actingAs($user)
->get('/profile');
$response->assertOk()
->assertViewIs('profile.show')
->assertViewHas('user', $user);
}
// Pestを使用したテスト例
test('user can view their profile', function () {
$user = User::factory()->create();
$this->actingAs($user)
->get('/profile')
->assertOk()
->assertViewIs('profile.show')
->assertViewHas('user', $user);
});
アップグレードガイド
Laravel 10からLaravel 11へのアップグレードを検討している開発者向けに、主要なステップを紹介します。
前提条件
- PHP 8.2以上にアップグレード
- Composerを最新バージョンにアップデート
アップグレード手順
composer.json
ファイルの依存関係を更新:
{
"require": {
"php": "^8.2",
"laravel/framework": "^11.0"
}
}
- Composerの依存関係を更新:
composer update
- 設定ファイルの更新:
php artisan vendor:publish --tag=laravel-assets --force
- キャッシュのクリア:
php artisan optimize:clear
注意点
- サービスプロバイダの変更に注意し、必要に応じて追加
- 非推奨になっていたメソッドを置き換え
- ディレクトリ構造の変更を確認し、必要に応じて調整
まとめ
Laravel 11は、パフォーマンス、セキュリティ、開発者体験に焦点を当てた大きなアップデートです。主な改善点をまとめると:
- アプリケーション構造のスリム化でシンプルさと柔軟性が向上
- インバウンドバリデーション機能により、モデルレベルでのバリデーションが容易に
- パイプラインコンポーネントによるより洗練されたBladeテンプレート
- パフォーマンスの全体的な向上
- より強力なセキュリティ機能
- 開発者の生産性を高める新機能
Laravel 11は、モダンなPHPフレームワークとしてのLaravelの地位をさらに強化する更新であり、多くの新機能と改善点を備えています。既存のLaravelユーザーにとっても、新規ユーザーにとっても、探索する価値のある多くの機能が含まれています。
Laravel 11へのアップグレードを検討している方は、公式ドキュメントを参照して、スムーズな移行を行うことをお勧めします。
参考リンク:
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