Reactアプリケーションの状態管理において、ReduxとRecoilは人気のある選択肢です。この記事では、両方のライブラリを詳しく比較し、プロジェクトに最適な選択をするための指針を提供します。
目次
ReduxとRecoilの概要
Redux
Reduxは2015年にリリースされた状態管理ライブラリで、Flux アーキテクチャに基づいています。予測可能な状態コンテナとして、単一のストアに全アプリケーション状態を保持する設計が特徴です。
主な特徴:
- 単一の真実のソース(Single Source of Truth)
- 状態は読み取り専用(イミュータブル)
- 純粋関数であるリデューサーによる状態変更
- アクション → リデューサー → ストア というデータフロー
Recoil
Recoilは2020年にFacebookによって発表された、React向けの比較的新しい状態管理ライブラリです。Reactのローカル状態と同じような使い勝手を目指しながら、グローバル状態管理の利点も提供します。
主な特徴:
- アトムとセレクタという概念を使用
- 分散型状態管理アプローチ
- Reactのフックとの強い統合
- 非同期データフローのサポート
アーキテクチャの違い
Reduxのアーキテクチャ
Reduxは中央集権的なアプローチを取ります。すべての状態は単一のストアに格納され、どのコンポーネントからも接続できます。状態を変更するには、アクションをディスパッチし、リデューサーを通じて処理する必要があります。
アプリケーション → アクションをディスパッチ → リデューサーが状態を更新 → ストアが新しい状態を保持 → 変更を購読しているコンポーネントに通知
このパターンはデータフローを予測可能にする一方で、ボイラープレートコードが多くなる傾向があります。
Recoilのアーキテクチャ
Recoilは分散型のアプローチを採用しています。アトムと呼ばれる小さな状態単位を定義し、それらは個別に更新できます。セレクタはアトムから派生状態を計算します。
アトム(基本状態単位) → セレクタ(派生状態) → コンポーネント
このアプローチにより、状態更新の粒度が細かくなり、不要な再レンダリングを減らすことができます。
学習曲線と開発体験
Reduxの学習曲線
Reduxには独自の概念(アクション、リデューサー、ミドルウェアなど)があり、初心者には学習の壁が高く感じられることがあります。ボイラープレートコードも多くなりがちです。ただし、Redux Toolkitの登場により、ボイラープレートが大幅に削減されました。
開発体験:
- ボイラープレートが多い(Redux Toolkitで改善)
- 明示的なデータフロー
- デバッグが容易
- エコシステムが成熟している
Recoilの学習曲線
RecoilはReactの既存概念(特にフック)に基づいているため、React開発者にとって馴染みやすい設計になっています。
開発体験:
- 最小限のボイラープレート
- Reactのメンタルモデルに沿った設計
- フックベースのAPI
- 非同期処理が直感的
パフォーマンス比較
Reduxのパフォーマンス
Reduxは単一ストアアプローチのため、小さな状態変更でも接続されたすべてのコンポーネントが再評価される可能性があります。適切なメモ化とセレクタ使用が重要です。
パフォーマンス特性:
connect
やセレクタによる最適化が必要- 大規模アプリケーションでは注意深い実装が必要
- Redux Toolkitによるパフォーマンス向上
Recoilのパフォーマンス
Recoilは細粒度の購読モデルを採用しており、特定のアトムやセレクタが変更された場合、それに依存するコンポーネントのみが再レンダリングされます。
パフォーマンス特性:
- 細粒度の状態管理
- 自動的な依存関係トラッキング
- 不要な再レンダリングの削減
- 大きな状態ツリーでも効率的
使用シナリオと適合性
Reduxが適している場合
- 大規模でエンタープライズレベルのアプリケーション
- 複雑なデータフローを持つアプリケーション
- チーム開発で厳格なパターンが必要な場合
- デバッグやテストが重要な場合
- 既存のReduxエコシステムを活用したい場合
Recoilが適している場合
- React専用のプロジェクト
- 迅速な開発が必要な場合
- 非同期データフローが多いアプリケーション
- 細かい粒度の状態更新が必要な場合
- Reactのパラダイムに近い書き方を好む場合
コード例で見る比較
Reduxの実装例
// アクション定義
const INCREMENT = 'INCREMENT';
const DECREMENT = 'DECREMENT';
// アクションクリエイター
const increment = () => ({ type: INCREMENT });
const decrement = () => ({ type: DECREMENT });
// リデューサー
const counterReducer = (state = { count: 0 }, action) => {
switch (action.type) {
case INCREMENT:
return { ...state, count: state.count + 1 };
case DECREMENT:
return { ...state, count: state.count - 1 };
default:
return state;
}
};
// Redux Toolkitを使った場合
import { createSlice, configureStore } from '@reduxjs/toolkit';
const counterSlice = createSlice({
name: 'counter',
initialState: { count: 0 },
reducers: {
increment: (state) => {
state.count += 1;
},
decrement: (state) => {
state.count -= 1;
},
},
});
export const { increment, decrement } = counterSlice.actions;
const store = configureStore({
reducer: {
counter: counterSlice.reducer,
},
});
// コンポーネントでの使用
import React from 'react';
import { useSelector, useDispatch } from 'react-redux';
import { increment, decrement } from './counterSlice';
function Counter() {
const count = useSelector((state) => state.counter.count);
const dispatch = useDispatch();
return (
<div>
<button onClick={() => dispatch(decrement())}>-</button>
<span>{count}</span>
<button onClick={() => dispatch(increment())}>+</button>
</div>
);
}
Recoilの実装例
import React from 'react';
import { atom, useRecoilState } from 'recoil';
// アトム定義
const countState = atom({
key: 'countState',
default: 0,
});
// コンポーネント
function Counter() {
const [count, setCount] = useRecoilState(countState);
return (
<div>
<button onClick={() => setCount(count - 1)}>-</button>
<span>{count}</span>
<button onClick={() => setCount(count + 1)}>+</button>
</div>
);
}
// 非同期処理の例
import { selector, useRecoilValue } from 'recoil';
const userDataState = selector({
key: 'userData',
get: async () => {
const response = await fetch('https://api.example.com/user');
return response.json();
},
});
function UserProfile() {
const userData = useRecoilValue(userDataState);
return <div>{userData.name}</div>;
}
まとめ:どちらを選ぶべきか
Reduxを選ぶべき理由
- アプリケーションが大規模または複雑
- チーム規模が大きい
- 厳格なアーキテクチャが必要
- 成熟したエコシステムを活用したい
- 学習コストを払う余裕がある
Recoilを選ぶべき理由
- Reactネイティブの開発体験を重視
- 迅速な開発と最小限のボイラープレート
- 非同期データフローが多い
- 細粒度のパフォーマンス最適化が必要
- 最新のReactパラダイム(フック)に親和性が高い
最終的な選択は、プロジェクトの要件、チームの経験、長期的なメンテナンス計画によって決まります。既存のReduxプロジェクトであれば、そのまま継続する価値はあります。新規プロジェクトでは、Recoilの簡潔さとReactとの統合の良さが魅力的かもしれません。
どちらも優れたライブラリであり、適切に使用すれば効果的な状態管理を実現できます。小さなプロジェクトから始めて、自分のワークフローに合った方を選ぶのが最善のアプローチでしょう。
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